仕事のときも、旅行のときも、時間があればまち歩きををしてるんです。
泊まりの仕事だったら、Googleマップでホテルまでの距離を見て30分くらいなら歩きます。
なるべく大通り沿いを避けて、住宅地の多い路地を歩くんです。
そうやって歩きながら、小学校や雑貨屋の前を通ると、その地元の空気というか色みたいなものを感じて好きなんです。
途中、古本屋があれば、とりあえず入っちゃうんですよね。
そして、その地域ならではのものを探すのが好きなんですよ。
今回は、そうやってまち歩きをしていて偶然見つけた金沢の古本屋を紹介します。
秋の金沢でぼくが経験したお話です
その日は、仕事が終わった秋の夕暮れごろ、初めて訪れた金沢駅から片町まで歩きました。
いえね、本当はそこまで歩くつもりはなかったんですよ。
金沢は初めてだったので、金沢駅のそばのホテルを予約した、つもりだったんです。
いやいや、正直にいうと片町って金沢駅のすぐ横だと思っていたんです。
それなのに、グーグルマップで確認するとグググッと引いて金沢駅がずいぶん小さくなるじゃないですか。
「あれ~、おかしいな~。イヤだな~イヤだな~・・・。」
右も左も分からない、夕暮れで薄暗くなった街。
荷物を持ったまま駅で立ちつくしている訳にもいかず、チェックインの時間も気になったので、とりえずマップの指し示す矢印を頼りに歩き出しました。
大通りを避けた金沢の路地って、本当に薄暗いんですよ。
さらに言えば、金沢は空襲を受けなかった街だから路地も古いままでわりと複雑に曲がり交わり合う場所が残っているから、マップの矢印も一見すると遠回りに見える方向を指していることが多いんです。
それで、「いや、どう見てもこっちの道から行った方が近道だろう?」
と思って矢印を無視して直進すると、そこは行き止まりで来た道をムダに戻る羽目になったりして、知らない街で独り舌打ちをしてみたりする。
薄暗い路地が続いた先に、たまにお店の明かりが見えると妙にホッとした気分になるのも初めての道を歩く醍醐味かもしれません。
どちらかというと方向音痴なぼくが、知らない夕闇の街でそんな楽しみ方ができるのもスマホとGoogleマップのおかげなんですよね。
でも、駅から歩き始めて20分後、ぼくを混乱させることが起きたんです。
マップの指し示す方向に歩いていたんですけどね、目印のはずの建物がない。
いや、それどころか、歩ける道がないんです。
工事の影響でした。
「これは困ったな・・・。」
大きく迂回するしかありません。
しかたなく予定の道から大きく外れて、住宅の連なる細い路地を歩いて行きました。
当時は、新型コロナな影響もあってクルマも人通りもなく、
「サーーー・・・、ピチャピチャピチャ・・・・。」
と水路に水の流れる音がどこからか聞こえるだけの道が続きました。
目的地も予想以上に遠く、心細さと焦りでだんだんと早足になりながら歩いていると、突然、道が大きくひらけた十字路に出ました。
「あ~、なんかわかりやすい道に出られた。助かった~。」
なんだかよくわからない安堵もつかの間、目の前に蔦に覆われた古びた建物が現れたんです。
十字路にこの建物の存在感は思いの外大きく、しかも、まるで深海の暗闇の底でチョウチンアンコウが獲物を誘うような灯りに、ぼくの目は奪われ、離れなくなってしまいました。
「あ~、この灯りは誘ってるな~。ヤバいな~。」
そう思いつつも逆らいきれず、フラフラと灯りに吸いよせられるように歩いていきました。
そこがなんと、今回紹介する古本屋、オヨヨ書林だったんです。
入り口からのぞくと、雑誌が雑然と積まれているところと文庫本がきれいに並んでいる本棚とのコントラストに、「あ~、危ないな。これは何かあるぞ。」という嬉しさでめまいがし、おもわず頭の中で財布の中身を確認している自分がいました。
周りを気にしつつ奥へ進むと、突然、ピアノが現れました。
僕が訪れたときは、ピアノの周りにも雑誌やチラシがたくさん置かれていて、最初に見たときは、「まだ未分類の本が置いてあるのかな?」と思ったくらいです。
でも、その雰囲気が古本好きにはたまらなく、むしろ居心地のよさに繋がるんですよ。
おそらく、古い工場をリノベして開店されたのだと思いますが、その建物の持つ雰囲気も相まって人を惹きつける魅力はまさに金沢の街のチョウチンアンコウ。
わたしたちは、普段の日常生活の中で、ふと知らない街をさまよってみたいという願望をみんな持っていると思うんですけど、時として、思わぬいい店に吸い寄せられる。
そういったことが、あるのかもしれないな。
そう思った、お話でした。
お店で購入した金沢の街の記憶
ハントンライスは、もちろん美味しいですよ?
でも、金沢に来た思い出も欲しい。
そこで古本屋に来たわけなのに、欲しい本を普通に選んでは能がないですよね。
記念のお土産になるものは何かないかな?
と探していると、一枚のチラシを見つけました。
たぶん、金沢日活館のチラシです。
消えた映画館の記憶というサイトを参考にすると、金沢日活館という名称は1955年ごろに使われていたようです。
その後、金沢プラザ劇場と名前を何度か変えながら上映を続けますが、1999年11月29日に閉館し、現在は建物も取り壊されたようです。
ということで、このチラシは1955年ごろに配られたもののようです。
チラシに載っている、巨象の道という作品と地獄の剣豪平手造酒(ひらてみき)が1954年劇場公開のようなので、1955年で間違いないのでは。
一方で、載っているトクダ鞄店の広告に『秋の感覚』、大田呉服店の広告に『秋祭り衣装』とあります。
さらに、大田呉服店の広告にある、「大せいもん拂!」というのを調べて見ると、「誓文払い」といって、元は京都発祥の風習で、商店が罪滅ぼしと称して大安売りをする行事のことを言うんですって。
これが、10月20日ごろの行事だそうなので、1995年の秋、10月に配られた可能性が高いですね。
そうそう、こういう地方のチラシは、その地元のお店の広告が載っているのがいいですよね。
こういうところに、その地方の当時の風景がかすかに見えてくる気がしませんか?
あと、よく見ると、巨像と地獄の間の白線が上から下へ微妙に広がっているんですよ。
こういうところに、当時のパソコンがない時代に印刷の版下を手作業で作る様子がうかがえてグッときます。
たった1枚のチラシですが、街の歴史を少しだけ感じられるお土産っていいと思いませんか?
あと、こういうチラシを安価で置いてくれているオヨヨ書林さんは、本当にいい古本屋だと思います。
おわりに
おわりに、と言っても、
旅先の古本屋でチラシを1枚買いました。
なんていう話にまとめも何もないのですが、古いものを扱っているお店には、やっぱりその地方、地域の時間というか歴史がかいま見えるものがあって、とくに古本屋となると東京の神保町ではむしろ見つからない、高価なものではないかもしれないけど出会ったひとにだけキラリと光るものが見つかったりするんですよね。
ぼくのブログをわざわざ読んでくださっている人は、きっと本が好きなんでしょう。
よかったら、旅先で少し時間を作って古本屋をのぞいてみてはいかがですか?
そんな旅先の寄り道も、きっと楽しいものですよ。