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これからお店を開きたい人が魅力をつくるのに参考にしたい1冊〜女子の古本屋

これからお店を開きたい人が魅力をつくるのに参考にしたい1冊〜女子の古本屋タイトルイメージ

 

古本屋は、やっぱりいいですよ。

 

なんだかホッとする空間ですよね。

 

どうしてなのかな?

と考えると、もちろん本が好きな人にとっては当たり前なのかもしれないですが、やっぱり店主の意図があって集められた本が作り出す空気感が、店内に入ったとたん時間が止まってしまったような感覚におちいると同時に、忙しない余計な情報ばかりの濁流の中から、編集された情報の並ぶ空間にヌルッと滑り込めた安堵。

なんだか、自分の制御権を取り戻せたような気がしてホッとするんですよ。

 

でも、最近の古本屋はちょっと違う。

 

たぶん、居心地の良さの性質が変わったお店が増えた気がするのですが、そんなお店の店主を見ると女子だったりする。

 

いや、今回紹介する本が出版されてすでに10年以上経つ現在は、さらに次世代の古本屋ができているのかもしれないけど、たぶん、そんな新しい古本屋の時代が始まったころの記録の1冊なんじゃないかと思います。

 

ていうか、オープニングからたぶんを使いすぎ。

 

 

 

女子の古本屋 (ちくま文庫)

女子の古本屋

著者:岡崎武志

発行所:筑摩書房

初版発行:2008年3月25日

 

 

 

本書の時代背景を考えてみた

2007年の看板image

 

以前は女性が店主の古本屋はほとんどなかったというけれど、考えてみればたしかに古本屋のレジにはおじさんがしかめっ面で座っていることが多かった気がします。

 

たまに座っている女性は、店主の奥さんの場合が多かったかな。

 

ぼくの思う、住宅街にある古本屋は家族経営、大学のそばの古本屋は学生のアルバイト店員、古本屋が集まったところの店主は取っつきにくいおじさん、そんなイメージかな?

 

 

すべての敷居が下がった時代

デジカメimage

 

ちょっと話はズレるけど、やっぱりインターネットの普及によってパソコンが一般家庭に普及していったことと、様々なもののデジタル化は、言い方は悪いけど多くの産業で専門職の価値を下げていきました。

 

たとえでよく使われる話ですが、マッキントッシュとDTPの出現によって印刷の原稿をデザイナーが作れるようになり、印刷代がめちゃくちゃ安くなりました。

 

聞いた話では、DTPの出現以前は月に1つの仕事があれば全社員が余裕で食えたけど、DTP出現以降は夜勤も入れた2交代制で何本も仕事をこなさなければならなくなったと言います。

 

それくらい、印刷はデザインから印刷のハンコを焼くためのフィルムを作る工程は高価な専用装置とそれを使いこなす職人技が必要で、敷居の高い仕事でした。

 

もっと強烈だったのは、デジタルカメラの出現でした。

 

なんだかんだで、モデルを完璧に撮影しようとすれば現在でもプロカメラマンには敵いません。

 

でも、デジカメによって企業の広報などで使用する写真を総務部の社員が撮影すれば済むようになってしまいました。

 

商品撮影も、ネット通販用などの場合はプロに発注するより自分たちで撮影した方が安く済んでしまいました。

 

さらに、スマートフォンのカメラが優秀になりすぎて、デジカメの市場すら縮小してしまいましたよね。

 

メルカリに出品するときは、ネットで見栄えのする撮り方を調べてスマホで撮影しています。

 

古本屋の世界だって、以前ならマニアの目利きの世界だったのが、スマホで撮影すると大体の値段、つまりその本の価値がわかるようになってしまいました。

 

さらに、インターネットとSNSによって好きなものの共感を集めやすくなり、好きの細分化が一気に進みました。

そして、好きの細分化によって、客が求めるお店の基準が変わっていきました。

 

それは、考えようによっては、共感される『好き』を集められるのなら、お店を開店する敷居もずいぶん下がったということなんだと思うんですよ。

 

さあ女子の番だ

女子image

 

そういう土壌ができたことで、ステレオタイプな女性像から外れた女子たちは、ていうか外れたわけではなく、最初からそんなステレオタイプはなかったのですが、とにかく師弟制があるかのような古本屋の世界が不景気で沈みゆく中で、女子が、というか、これまでの暗黙のルールの外にいる人が入り込める緩みができたんだと思うんですよ。

 

その緩みに入り込むのに、たまたまそのときは女子の番がきていたということじゃないでしょうか。

 

なんというか、町で古本屋を開きたいという人が現れるのって、高齢化の進む田舎で、どうせこのまま村が消えてしまうくらいなら、若者が興味を持ってきてくれるなら応援しようじゃないか。というノリに近いものを感じるんですよね。

 

令和の現在では、古本屋を始めるのは女子に限らず、20代の若い人が既存のイメージにとらわれることなく新しいアイデアで開店しているのを見かけますが、そんな流れの扉を開いたのが女子の古本屋なのかもしれませんね。

 

 

本書の価値は案内から記録へ

古本屋の本棚image

 

本書の役割は、おそらく店主が古本屋を始めるまでの道程を掘り下げながらその古本屋の個性を描き出すことと、古本屋めぐりが好きな人へ向けた案内書だとおもいます。

 

だから、初版発行の2008年からしばらくは案内書としての役割も十分に果たしていたと思うのですが、ぼくがこれを書いている2022年現在では、紹介されている古本屋が現在も続けているのか、移転しているのか、などは自分で調べなおす必要があります。

 

実際に、現在、海月書林さんはリニューアルし、ひるのつきという店名でオンライン営業中でした。

 

ひるのつき

 

でも、本書の魅力は14年経っても色あせることはありません。

 

だって、各店主の古本屋を始めるまでの道程は、古本屋に限らず、男女を問わず、いつか自分のお店を持って自分らしい時間を生きていきたいと思っている人にはすごく参考になるし、一人で商いができるサイズが前提ではあるけどお店の魅力はつまる所、店主の魅力であって、業界のセオリーは絶対ではないということに気づくことができるから。

 

そして、お店と店主の話は、女性が店主の古本屋が増えていった2000年代の、ある意味、古本屋業界の転換期を記録した歴史書の役割を果たすようになった、と言ったら言い過ぎでしょうか?

 

 

おわりに本書はまだまだ役にたつ

doituの古本屋 image

 

時代は令和になり、電子書籍も当たり前の世の中になって、とくにマンガが好きな人には場所を取る紙の本から電子書籍に買い換える人も増えてきたけど、それでも本屋さんになりたい人はまだまだいるんですよね。

 

ぼくが本書を読んだ後の印象としては、これから古本屋を始めたい人が参考にするには1世代古い情報になっている気はします。

 

だから、いまから本屋を始めたいなら、なるべく最新の本屋関連の本を1冊は探したほうがいいと思います。

 

でも、前述したように、本書の魅力は店主が古本屋を始めるまでの道程、ストーリーにあります。

 

そこからの学びは、お店の経営の仕方ではなく、それぞれの古本屋を魅力的にしている理由だと思うんです。

 

だから、本を扱うお店を始めたい人にとって本書はまだまだ役にたつし、本屋以外でも何かのお店を始めたいと夢見ている人にもオススメしたい1冊です。

 

ちなみに、蛇足ですが、令和の現在は、この手の書籍のタイトルに女子とつけるのはなかなか難しいでしょうね。

 

そういうところも、歴史を感じる1冊かもしれないです。

 

 

 

 

 

 

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