私たちは、花電車芸人です!
とアメトーーク!に絶対に出ることはない芸人の世界があります。
その芸は、実はかなり長い歴史があるんだけど、日の当たる世界では見ることができず、令和の現代では後継者もままならない非常に特殊な世界です。
おそらく、新型コロナが流行する前は10人くらいいたと思われる芸人さんも、新型コロナ流行の2020年以降はしばらく仕事がない日々が続いたと思われ、もしかすると2022年現在にはもう風前の灯なのかもしれません。
今回紹介する書籍は、ある花電車芸人の人生と、花電車芸とその芸が伝承されてきた街の歴史について書かれたノンフィクションです。
著者:八木澤高明
発行:株式会社KADOKAWA
初版発行:2020年3月10日
本書の概要をざっくりと
本書は、冒頭で書いたとおり、花電車芸人とその周辺の歴史について著者が長年の取材で調べてきたものをまとめたノンフィクションです。
本書ではまず、花電車芸の重要人物にしてストリッパーのファイヤーヨーコさんについて大きく取り上げています。
そのあと、花電車芸の歴史的な話、ストリッパーの中でも異端であったり、少し昔のストリップ業界特有の生い立ちを持つ踊り子さんの話が続き、最後に花電車芸が披露されてきた花街の現代までの歴史が語られています。
個人的には、ストリップ劇場の中でも花電車芸が披露されていた、または現在でも披露されている劇場について、その土地で披露されてきた歴史的な背景が説明されているところは、性風俗だけでなく広い意味で街の成り立ちの歴史が見えて興味深かったです。
生ける伝説
ファイヤーヨーコさんの芸については、本書でもカラー写真が載っていますしYouTubeで検索すると出てきますので、くわしく知りたい方は本書とYouTubeで確認していただきたいのですが、本書を読んで意外とこの部分が重要なんじゃないの?と思ったのは、ファイヤーヨーコさんの芸は花電車芸人の間で脈々と伝えられてきた芸とは少し違うところかと思いました。
というのも、ファイヤーヨーコさんは先輩芸人から芸を教えてもらったというよりは独学で芸を磨いていった人で、その結果、伝統芸を超えてしまったんです。
あそこを使って火を噴いたり、吹き矢をして風船を割ったりするのですが、その火の勢いや吹き矢のスピードと飛距離が過去にないレベルなんだそうです。
たとえるなら、いや、たとえる意味はないんだけど、あえてたとえるなら、染之助染太郎の傘で枡を回す芸を見よう見まねで練習していたら、いつの間にか巨大なビーチパラソルでブラウン管テレビを回せるようになっていたくらい、芸の精度と見た目の派手さをレベルアップさせてしまった人なんです、たぶん。
それくらい、花電車芸にのめり込んだ結果、興味は花電車芸の発祥地に向かって、ついには海外へ道場破りに行くんです。
その模様は、最高に面白いのでぜひ本書で確認してください。
YouTube動画の公開年に見ると、まだ現役で活動されているようなので、まさに生ける伝説ですね。
花電車芸が残っていくためには
昭和の時代、花電車芸はストリップ劇場で観られたようですが、どこの劇場でも観られたというわけではないようです。
花電車芸は、その昔は妓楼で披露されたお座敷芸の一種のようで、それが時代と共に赤線や温泉地、ストリップ劇場へと場所を変えていったようで、その流れもあるせいか、温泉地のストリップ劇場で細々と続けられていたようです。
でも、現在の温泉地でストリップ劇場が残っているのは熱海くらいではないでしょうか。
バブルが崩壊し、社員旅行の伝統が廃れるとともに、温泉地のセクシーな遊興の場も成り立たなくなっていったんですね。
そんな境遇に、追い打ちをかけるように新型コロナが流行し、観光業は大ダメージを受け、個人の収入も減りました。
当然、ストリップ劇場も休業や時短営業をしなければならず、ただでさえストリップ文化の衰退が激しい中で苦しい状況に追い込まれました。
実際、2021年には広島第一劇場が閉館しました。
そういう環境で、花電車芸はどうなってしまうのか。
個人的には、正直、80~90%の確率で消えてなくなっていくと思います。
ただ、受け継がれていく可能性が全くないかというと、まだあると思うんですよ。
理由というほどの理由にはならないのですが、最近のストリップ劇場には女性客がけっこういるんですよね。
女性客が増えた劇場
ぼくも、コロナ前に一度、岐阜のまさご座という劇場に行ったことがあるのですが、そのときも5~6人の女性客が熱心に観ていたんです。
なぜかというと、現在のストリップは、おそらく昭和の時代とは少し違う意味で芸を磨いているストリッパーさんがいるからなんです。
昭和と少し違うというのは、現在のストリップは猥雑なものと認識しながらアート的な演出とダンスをする人がいて、それがすごく美しいんです。
衣装も、コスプレイヤーに負けないレベルのものを着て踊る人もいます。
一時期は、いわゆるセクシー女優がストリップに挑戦するパターンが増えていましたが、これはぼくの想像ですが、そのセクシー女優の女性ファンが劇場に足を運ぶようになったことが、女性のストリップファンを増やすきっかけになったんじゃないでしょうか。
そんな女性ファンが増えたことと関係はないかもしれませんが、ストリップの美しさを再発見される中で、踊り子さんも現代の感性で美しさを表現するパフォーマンスに磨きをかける人が増えているように感じます。
いや、増えているというけど、ぼく自身は劇場で観たのは1回だけだから踊り子さんもほとんど知らないんで、かなりいい加減な感想なんですけどね。
本書が担う役割は
でも、観る人の間口が広がれば、踊り子になりたいと思う人の数も増えるだろうし、表現したいこと、チャレンジしたい芸も多種多様になっていくでしょうから、その中で花電車芸にチャレンジしたいと思う人だってきっと出てくると思いませんか?
なんてこと、ストリッパーになるわけでもない中年の男が無責任に思っているだけなんですけど、国に守られているわけでもなく、秘伝の書みたいな形式が確立された伝承方法があるわけでもない庶民の芸が残っていけるかどうかは、なんだかんだで確率の問題だったりするわけで、確率が上がるための条件はその芸が一人でも多くの人に知られて、その芸を求めてわざわざ観に行く人がいて、その中からチャレンジする人が出てくるしかないんですよね。
だから、本書は、花電車芸のような庶民の芸をアーカイブではなく、体験できるものとして残していくためにすごく大切な役割を担っていると思います。