ストレイバード はぐれ鳥の止まり木

瀬戸市の読書コミュニティスペース ストレイバードの日記です。主に昭和の微妙な本、珍本、奇本を中心に紹介しています。

映画ヨコハマメリーを観てぼくをセンチメンタルな気持ちにさせた2人の女性

横浜の夜景 image


ドキュメンタリー映画のヨコハマメリーを観てきました。

 

これが本当に心をえぐられる作品で、観終わったあとの感情が複雑すぎて消化しきれなかったので、文章に残しておこうと思います。

ヨコハマメリーの監督は、作品を書籍にもしています。

 

ヨコハマメリー: 白塗りの老娼はどこへいったのか (河出文庫)

 

他に、別のライターがメリーさんを調べて書いた書籍もあるので、興味のある方はその2冊から手をつけてもいいかもしれません。

 

白い孤影 ヨコハマメリー (ちくま文庫)

 

 

 

 

ハマのメリーとは

メリーさんに似た人形 image

 

横浜の伊勢佐木町あたりで、白塗りの顔でドレスを着て歩く老婆。

馬車道という通りを歩く姿や、松坂屋の前に立つ姿を見かけたそうです。

 

街に立ってお客を取る、娼婦を戦後からしていたようです。

 

顔と手を真っ白に塗ったその姿は、それは人の目を引いたでしょうね。

 

その老婆を見かけた人は、さまざまな噂話をしたそうです。
やがては実像とはかけ離れた伝説のハマのメリーができていきました。

 

でも、ネットで検索しても残っている写真は少なく、本人が語った話なども、もほとんど残っていない幻のような人です。

 

何十年と街にたち続けたけていたのに、
1995年のある日、突然姿を消してしまいます。

 

これがまた、さまざまな噂話を生むのですが、
この映画には、横浜から消えたその後を知ることができる、本当に貴重な映像になっています。

 

 

この映画が印象的な理由

横浜のとある街角 image

 

まず、この映画はメリーさんを追った作品なのに、
本人はほとんど出てこないんですよ。

 

メリーさんと関係の深かった人や、
メリーさんがいた頃の街の記憶、
メリーさんが通っていたお店で働く人、
そういう部分をていねいに聞いていくんです。

 

話によっては、メリーさんはまったく出てこない。

 

でも、当時、と言ってもメリーさんが横浜の街に立っていた約40年。

そんな長い時間の中のひとコマ、またひとこまと集まってくると、ふと、街の雑踏の片隅にメリーさんの姿が浮かび上がってくるんです。

 

そして、そうやって浮かび上がってきたメリーさんには、
どこか懐かしいような、親しみを感じてしまうんですよ。

 

 

メリーさんが名女優より心に刺さる理由

雨降る港町の夜景 image

 

考えてもみれば、ヨコハマのメリーさんはただの街娼のひとりで、大きな功績を残したわけでもなく、現在でも知る人ぞ知る存在です。

 

ただ、いつからか顔と手を真っ白に塗り、
ドレスを着て街に立つようになってから、
その姿を見た人たちが妄想を語り、
やがて伝説が作られていった。

 

そう、ヨコハマのメリーさんは、
実は実像がほとんど知られていない人だったんです。

 

だから、若いころの写真などもぜんぜん残っていないのか、
劇中では30代のころの姿は写真が1枚出てきただけじゃないかな?

 

あとは、おそらくカメラマンやルポライターが姿を追いだした、
お年を召してからの映像や写真がほとんどなんですよね。

 

それはそうですよ。

ぼくたち一般人の日常が記録としてほとんど残っていないのと同じで、メリーさんは街で生活していた一般人のひとりなんですから。

 

でね、メリーさんがなぜか人の心を揺さぶる理由は、
実は普通の人だったからなんだと思うんですよね。

 

若いころに九州から横浜に出てきて、
いつか胸を張って故郷に帰る日を夢見ながら、
それがなかなか叶わないまま時は流れ、
いつしか背中は曲がり、耳は遠くなって、
故郷恋しさに街を離れることを考える・・・。

 

そういう姿が見えてきて、とにかく切ないんです。

 

テレビやネットを見ていると、
世の中は成功者だらけのような番組や記事ばかりだけど、
現実はなかなか波に乗れず、
人生の苦しみの中にいる人の方が多いわけで。

 

だから、記録がほとんど残っていない1人の人生をギリギリ掬いとり、スクリーン上に確かに存在する人として描かれたメリーさんを観たとき、多くの人が同情というよりは、どこか共感や生きていたことへの安堵の気持ちを持つんじゃないかと思うんです。

 

川沿いにたたずむ猫 image

 

映画『女囚さそり』を初めて観たとき、
梶芽衣子の無言の演技に衝撃を受けました。

 

メリーさんは劇中にほとんど出てこず、語ることもないのに、
心に刺さるような衝撃はどんな名女優より鋭いものでした。

 

女優の五大路子が一人舞台「横浜ローザ」を演じたとき、
ハマのメリーが観客に何をさせたのか?
そのシーンは、本作の中でも見逃せないところのひとつです。

 

もし、近くの劇場で公開されていたら、
本で読む前に観てほしいです。

 

 

最後にもう一人の女性について

ライブで歌う歌手 image

 

このドキュメンタリーは、
ハマのメリーという幻のような人とは別に、
個人的にもう一人、思わず、「ああ・・・。」
と声が漏れてしまったシーンがありました。

 

それは、オープニング曲の伊勢佐木町ブルースが流れたときです。

 

この伊勢佐木町ブルースを歌うのは、渚ようこ。

 

渚ようこは、知る人ぞ知る昭和歌謡の歌い手です。

 

平成の時代に、ヨコハマに所縁のあるクレイジーケンバンドと歌ったり、阿久悠の作品を集めたカバーアルバムを出していた人です。

 

渚ようこの歌声を初めて聴いたのはいつだったかな。

 

初めて買ったアルバムは、「魅力のすべて~BEST「1998~2008」

 

一時期、毎日このアルバムを聴きながら通勤バスに揺られていました。

 


www.youtube.com

 

すごく魅力的な声の歌手でしたが、
2018年9月、急逝してしまいます。

 

生年月日などは非公表でしたが、まだまだ若かったはずで、突然飛び込んできたニュースに呆然とした記憶があります。

 

その渚ようこが、映画が始まってすぐに不意に現れたことで、ぼくにとってこの作品は街から消えた2人の物語となったんです。

 

この作品が最初に公開されたのは2006年とのことですが、
公開当時には想像もしなかったであろう物語がもう一つ、
2021年の上映時にひっそりと乗ってしまった。

 

道端に落ちた花 image

 

ぼくにとっては、人生の哀愁、
センチメンタルな気持ちを深く感じさせる、
ふたつとない作品でした。

 

 

 

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