平成の終わりから令和にかけて、若い人の間ではちょっとした昭和ブームが来ているそうですね。
たしかに、昔、名古屋の遊郭があった場所にもカメラを持った女性が歩いているのを見かけることがあります。
最近では、スナックが若い女性にも人気があるらしいですけど、ちょっと前なら考えられない光景です。
昭和の時代が、ある意味魅力的に映り、どうしてこうも興味を引くのか?
それはきっと、アホが無駄に大発生していたことが理由の一つじゃないかな?
と思うんですけど・・・。
時代としてはずいぶんと長かった昭和の、教科書には決して載らない歴史をまとめた本を紹介します。
裏昭和史探検
風俗、未確認生物、UFO…
著者:小泉信一
発行所:朝日新聞出版
初版発行:2019年3月30日
本書の構成
本書の3分の2は、戦後の赤線、青線に始まり、ストリップからイメクラ、AVへとさまざまに枝分かれしながら進化してきた風俗史といってもいいです。
残りの3分の1は、カッパやツチノコなどのUMA系と国内UFO伝説という、B級ネタが好きな人にはたまらない構成となっています。
ただし、 話題はB級ですが、一つ一つの内容は辞書的な役目を果たすくらい情報量が多く、でも読みやすいちょうどいい文章量です。
さすがは、新聞記者さんが取材してまとめた文章ですね。
資料的な価値がありますよ。
昭和のデタラメなパワー
それにしても、本書を初めから読み進めていくと、戦後の高度経済成長期の波に乗った欲望を叶えようとするパワーはすごいなと感じます。
ストリップ
現在も生き続けるストリップは、最初は額縁ショーから始まっているんですよね。
裸の女性が額縁を持って立っているだけ。
それでも、戦後の気分が沈んだ日本社会では大ウケだったんですって。
そこから、ストリップはさまざまに進化していき、現在のストリップ劇場は女性客もちらほら、というかけっこうな人数いるんですよね。
ストリッパーなんて、ほとんどアイドルですよ。
チェキを撮っているなんて、地下アイドルの現場と変わらないじゃないですか?
喫茶
一方で、現在はおそらく絶滅したノーパン喫茶は、その後すぐにノーパンしゃぶしゃぶ、ノーパン牛丼にまで進化?していったんですよ。
もう、発想が「どんだけ面白いことしたろかな!」という方向に行ってしまって、オーナーは本当にエロい店を作ろうと思っていたのかな?と疑わしくなってしまう進化っぷりですよね。
本書にも書いてありましたけど、こういういい意味でアホなお店は、やっぱり大阪発祥だったそうです。
小屋
取り上げられているのは、性風俗だけではないんですよ。
見世物小屋についても書かれています。
たぶん、30代以下の人は知らないでしょうし、40代でも実際に見たことがある人はものすごく少ないんじゃないかな?
見世物小屋は、神社などのお祭り会場でテントや小屋を建てて、蛇女とか人魚がいるというお化け屋敷のようなドキドキ感を売りにするいかがわしいものです。
ぼくも中に入ったことはないんですけど、蛇を持った女性が座っていたり、絵が飾ってあるだけみたいなパターンもあったりする感じの、昭和世代なら一度は経験のある、
「ヤラレタ~~~!」
「ギャフン!」
的なノリのものが多かったようです。
なんていうのかな?
昭和の時代って、真顔で訴えようとするのではなく、
「なんだよ、ちくしょー!」
って言うところも含めて遊びのものって、結構あったんですよ。
たとえば、ガチャガチャ。
今でいうと、ガシャポン?
あれって昔は相当いい加減で、コスモスっていう大型のガチャマシーンはバッタモンキャラのオモチャがたくさんあったことで有名ですが、普通のガチャガチャだって全然負けていなかったんですよね。
たとえば、水につけると恐竜が産まれるという、『恐竜の卵が入っている!』と書いてあるガチャガチャがありました。
30円くらいで回せたと記憶しているんですけど、実際に出てくる景品は全然違うものばかり。
「おかしいな?」
と思いながら、ケースのイラストをよく見てみると、
『入っていないのもあるよ。』
と小さな字で書いてあったんです。
そんなウソは、当たり前すぎてむしろ面白かったんです。
駄菓子屋なんて、そんないかがわしさの宝庫だった気がするんですけど、その最たるものが見世物小屋だったんだと思います。
でも、見世物小屋にはもう一つの顔もありました。
色々と体に不自由があって、普通に働けない人を受け入れられる場所でもあったんですね。
現在は、ミゼットプロレスすら差別扱いで消えてしまったほどですから、見世物小屋が成り立つわけもなく、ぼくが最後にいかがわしい看板が付いた小屋を見たのは、たぶん1999年前後に、福岡の箱崎宮の祭り会場だったはずです。
余談:テープ
余談ですが、1999年ごろまでは、ゲームセンターのUFOキャッチャーの景品に、
ラブホテルで録音された音声テープ
みたいなものがあって、聴くとわざとらしい喘ぎ声が入っている。
なんていう景品がありました。
そういう、
「こんなもの、どこに需要があるんだ?」
と思ってしまうヘンな物が、ごく普通のゲームセンターに紛れているのを見つけたときのワクワク感が面白かったんですよ。
レジェンドとの対談は必読
本書には、昭和のエロ本界のレジェンド、末井昭氏との対談も載っています。
末井昭氏については、かなりくわしく書かれた本がいくつかあるし、ご本人も自伝のような本を出されているので、くわしく知りたい方はそちらを読んでみてください。
ちなみに、本書が発行された前後には、当時のエロ本文化を改装するような本や雑誌がいくつか発行され、末井氏の対談や手記のようなものを見かけることが多かったので、探してみるのも面白いと思います。
さて、本書の対談ですが、朝日新聞の記者として、昭和の風俗界を取材してきた著者と、昭和の風俗界の一翼を担ってきた末井氏が語る、ノーパン牛丼屋まで現れるほど何でもありだった時代背景と裏話は、「ああ、あのころの街を探索できたら・・・。」と思わずにはいられなくなります。
UFO伝説の章も面白いよ
個人的にちょっと想定外だったのは、UFO伝説のルポ記事が面白かったことです。
本書の構成も、3分の2が昭和風俗史であるように、ぼくも昭和のわい雑な世界で知らない情報はないか、ということが本書を読むきっかけだったんです。
でも、このUFO伝説は大昔から昭和の時代にかけて日本国内でUFOと疑われた事件や文献について調査したルポだったんですよ。
当時、新聞で取り上げられるくらい世間を騒がせたUFO事件の現場へ、著者が赴き取材したことが書かれているんです。
だからなのか、内容はオカルト的ではなく、当時の世情を振り返るような構成になっています。
とくに、三島由紀夫から吉田類まで出てくるUFO話って読んだことがなく、かなり引き込まれました。
終わりに~無駄と余白
ぼくは、旅先で名所旧跡へはほとんど行かず、その街の住人になったつもりでぶらぶらと歩き、地元の人に愛されているようなお店でボーッと過ごすのが好きです。
今風の通りを避けて路地裏を散歩しながら、昭和の面影を見つけては、自分が子供だったころの風景やテレビで流れていた情報を思い出しながら、そこにあった当時の賑わいを想像します。
最近では、街もエンターテイメントもスマートに効率化されすぎて、時に窮屈に感じてしまうことがありますけど、それって別にアラフォー以上の世代だけの話じゃないんでしょうね。
本書のようなテーマに需要があるのも、大きな声で言わないまでも、多くの人の中で無駄と余白を求める気持ちがきっとあるんだろうな、と思うんです。
決して、差別的、底辺的なものを求めているというわけでなく、人生の息継ぎができるような無駄と余白を求めているんだろうなと思うんですよ。
そもそも、優秀なスマホを持っているのに一眼レフカメラを持って遊廓跡をうろうろしていたり、洗練されたショーがたくさんあるのに、わざわざストリップ劇場へ行って踊り子さんを見つめているのも、座ってれば何でもかんでも全て用意されてエンディングまで滞りなく見せられる洗練されたショーや、検索すれば関連情報を含めた答えが目の前に並べられるWEBの世の中が、窮屈で息がつまる思いがするからじゃないですか?
もしかすると、いまの世の中は整いすぎているのかもしれませんね。
本書を片手に、街歩きをしながら昭和の残り香を探してみるのも楽しいのではないでしょうか?
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