コンプライアンスに厳しい現在ですが、なるべく多くの人にフラットな目線で読んで欲しい一冊です。
AV女優、のち
著者:安田理央
発行:KADOKAWA
初版発行:2018年6月10日
この本は、現在は引退しているセクシータレント、いわゆるAV女優だった人たちのその後を綴ったものです。
女優さんごとのオムニバスになっているのですが、登場するのは、
みひろ
愛奏
泉麻那
真咲南朋
(敬称略)の7人です。
個人的には、みひろさんはゴットタンのキス我慢選手権の人、麻美ゆまさんは恵比寿マスカッツで明るく歌の上手かった人のイメージで、AV女優として記憶にあるのは笠木忍さんくらいかな。
あとの4人の方たちは、正直全く知りませんでした。
この、たぶんAV女優としてはかなり有名だった愛奏さん、長谷川瞳さん、泉麻那さん、真咲南朋さんを知らないのに笠木忍さんは知っているところに、私のヤバさを感じますね(^_^;)
理由は実は簡単で、私は昔から古本屋へ行くのが好きだったのですが、笠木忍さんの作品は20年くらい前の古本屋でよく見かけたからなんですよね。
あと、個人的にAVってカンパニー松尾監督のロードムービーのような作品が好きだったんで、女優さんでは選んでなかったんですよね。
とまあ、DTバリの言い訳はこのくらいにしておいて。
この本を読む上でまず知っておきたいのは、AV女優の人数です。
現在、プロダクションなどに登録されている人数は6000~8000人だそうです。
正直言って、そんなに多いの⁉︎という印象じゃないですか?
実際の問題として、その中で仕事がもらえている人数は3割程度らしいのですが、登録人数わ8000人で計算しても2400人もいるなんて、ちょっと信じられません。
おそらく、素人ナンパ物などで1回だけ出演した、温泉旅館などのシチュエーション物で奥の方に少し写っている人、なんていうパターンの女優さんが2400人に含まれるのでしょうね。
だって、単体で毎月のように新作を出せる人なんて、100人もいないでしょ?
そんな、単体で毎月のように新作を出せるスター女優が、平均5年程度仕事をして引退していくのでしょうが、そんな100本以上の出演作があるようなスター女優でも、ほとんどの人は引退後は普通の生活に戻って普通に暮らしたいからインタビューを拒否するんでしょうね。
そんな中で、本書で名前を出してインタビューを受けた7人はきっと超レアな存在です。
実際、インタビューを受けた人は笠木忍さん以外は一般の映画に出る俳優に転身していたり、テレビタレントとして活躍していたり、自分が撮る側の監督になっています。
そんな中、以前どこかの番組にみひろさんが出演した時、番組に出演が決まっていたけど、ある男性タレントがタレントイメージの問題で共演を拒否し、結局みひろさんは出演できなかったという話をしていました。
これほどわかりやすく、社会の壁が見える瞬間というのも珍しいんじゃないですか?
蛇足かもしれませんが、
そもそも『人前で裸になってセックスで稼いだ』からと侮蔑する前に、その影には彼女たちを使ってもっと儲けた人間がいるんだということに冷静になって気づくべきじゃないでしょうか?
一般的な企業にも当てはまりますが、日本の社会はそれまで頑張ってきた人に対して冷たすぎますよ。
デビューした様々な動機
この7人のデビューした動機だけでも、噂に聞くようなパターンを含め本当に様々です。
中には、「それって詐欺じゃないの?」と思うような恐ろしい気持ちになるものもありますが、それでもそれをただマイナスにするのではなく、未来につなげている姿は尊敬します。
逆に言えば、やはり騙されたも同然でデビューしたタイプの女優さんやお金のためだけでデビューしたような女優さんのほとんどは、引退後はひっそりと暮らしていたいと思うでしょうね。
これも噂で聞く話ですが、引退すると整形で顔を変えたり、出演時に整形していた顔を元に戻したりして、AVに出ていたことがバレないようにするというのも、引退後のリスクを想像するとただの噂とは思えないですね。
でもさあ、いわゆる一般社会の差別的な反応、少数派を見下した排他的な態度は程度の差はあれど、会社組織の中を含めた日常的な世界にもありますよね。
会社で研究開発をしている人の中には、「俺たちが稼いだ金で儲けにならないことばかりしやがって。」的なことを言われた経験のある人、いるんじゃないですか?
あと、会社を辞めた途端、社会的な信用が低くなるというのも、その人がどれだけ役に立つ能力を持っているか、約束を守る人かどうか、などの部分は一切無視して人間を鉛筆程度の道具くらいにしか見られなくなっている、心を失ってしまった、人間の中の心があった部分をお金に奪われてしまった社会の悲しい姿のような気がしませんか?
あ、さすがに話が脱線しすぎたか。
現在の彼女たちが見せてくれているもの
とにかく、この7人の現在の姿を読むと、正直、こんなに強く立ち続けられる人ばかりではないと思うんですよ。
なんというか、一般の人と同じ道路を歩いているはずなのに、彼女たちの歩く部分だけ大きな石が転がっていたり、いかにも躓きそうな穴が空いている感じがするじゃないですか。
でも、その時々の『今』にしっかりと向き合いながら、つまずいて多少ヒザを擦りむいても立ち上がって一歩一歩前へ進み続ける姿を、本人たちは見せるつもりもなく見せてくれているんですよね。
それは、キラキラしたところだけをやたらと強調して見せようとするモデルやタレントとは明らかに違い、見る人から偏見さえ取り除ければ、社会人にとっては共感できて見習おうと思える姿じゃないでしょうか。