大人になるというのはある意味、臆病になるということなんですよね~。
なんだかんだと言い訳したり、上から目線で否定したりするけど、それって心のどこかで臆病なところを隠している表現だったりするんですよね。
その人自身、そんな感情に気づいていなかったりするんですけど。
さて、今回紹介する本はこちらです。
虫類図譜(全)
著者:辻まこと
発行所:筑摩書房
初版発行:1996年12月5日
初版が1996年となっていますが、元々は芳賀書店から1964年7月に刊行されていて、筑摩書房版は1964年に刊行された際には未収録だったものを追加し完全版として刊行されたものです。
虫類図譜とは、1954年から歴程という現代詩の同人雑誌で連載されたカリカチュア、いわゆる風刺絵シリーズです。
辻まことが当時、世間で流行っていた言葉から想像上の昆虫を描き、その言葉の本質を突いて世相を切ったり、皮肉ったりした解説が書かれています。
イメージでいうと、昔話題になった『悪魔の辞典』みたいな感じかな。
昆虫の絵と文章を読んでいると、日本にこんな感性を持った人がいたんだと、ちょっと驚きます。
これはやっぱり、パリで過ごした時間の中で身につけたものなのかなあ。
絵も文章も洒落ているんですよね。
さて、辻まこと氏が辻潤と伊藤野枝の子ということを知っている方もいるかと思います。
以前紹介した『すぎゆくアダモ』を読んでいると、穏やかな目線で生きる素晴らしさを語る人というイメージだったんですけど、この本を読むと「あー、やっぱり両親の血を引いているんだな」と文面から激しさを感じます。
でも、ただ激しいのではなくて、辻潤のダダイズム的な姿勢と伊藤野枝という衝動と社会に向けた激情の姿が第一形態から、それらを受け継ぎながらも洗練されて中道的で理知的な姿の第二形態に進化している感じといえば伝わるのかなあ。
いや、ファーストガンダムからνガンダムになって、ビームサーベルやビームライフルで攻撃するよりフィンファンネルで攻撃する、みたいな?
違う?
ただね、
『衝動』
の項目を読むと、辻まこと氏が人間にとって最も重要なもの、忘れてはいけない大切なものが『すぎゆくアダモ』のテーマにもしっかりと含まれているんだということに気づきました。
すぎゆくアダモも、『衝動』で旅を続けていくんですよね。
この衝動というやつは、実は子供の頃は行動の原動力で、日々発動しまくるものなのですが、月日が経ち大人にななるにつれて発動しにくくなっていくんですよね。
衝動に鈍感になるといったほうが、イメージにぴったりかな?
あと、『前衛派』という言葉もありますが、
前衛派は前衛ではない。後衛である。
だなんて、読むと「ハッ!!」っとさせられませんか?
『派』とつくだけで、それはもうすでに先頭には立っていないだなんて。
また、『派』というくくりに入った途端、『衝動』が失われていくように感じませんか?
他の言葉に『嫉妬』『愛国』『防衛』『習慣』『メソード(メソッド)』などありますが、どれも大人という衝動を失った鈍感な姿勢がすけて見えてきます。
個人的には、節目ことに取り出してペラペラとめくりたい本になりました。
どの項目も、今の時代に照らし合わせても色あせていないから、開いたページに描かれた昆虫と言葉を読むと、
現在、自分がバランスを欠いていないか?
世の中を偏った目で見て、かえって大切なことが見えなくなっていないか?
と自分に問うための間を置くことができるんです。
それってまさに、カリカチュアの本領発揮といった感じじゃないですか?