ケイブンシャの大百科は、1970~1980年代生まれの人なら一度は目にしたことがあると思うシリーズです。
今回は、そのシリーズの中でも、たぶん人気ジャンルだった怪奇ものを紹介します。
続怪奇亡霊大百科
シリーズNo.336
発行所:勁文社
初版発行:昭和63年(1988年)7月22日
本書の構成
まず、続を紹介する理由は、単に古本屋で見つかったのが俗の方だっただけで、とくに深い理由はありません。
[収録内容一覧]
・実際に起こった恐怖の事件
・実録!ホラー体験
・恐怖のホラーまんが
・ミステリー小説
・ミステリーアドベンチャーゲーム
実際に起こった恐怖の事件
実際に起こった恐怖の事件は、編集部に実体験の手紙を送ってくれた読者にインタビューした体で書かれています。
収録されたインタビューは、
・自殺した中学生の亡霊におびえる
・野良犬の死霊がすみついた墓地
・巨大化した魚が襲ってくる!
・呪われた男がゾンビに!
・深夜のコインロッカーに浮かぶ霊
・飛び込み自殺者の霊が招くホーム
・クモの霊に呪われた男
・トラックにひき殺された女性の霊
という感じなのですが、いかにもな話からちょっとイっちゃってる話までバラエティーに富んでいますね。
クモの霊に呪われた男なんて、トンボやチョウチョを食べていますからね。
虫を食べるって、それは呪ったんじゃなくて乗っ取ったんじゃん。
って思ったんですけど、そんなことをいうのは野暮というものですよ。
子供のころにこんなの読んだら、きっとクモを殺せなくなりますよね。
恐怖のホラーまんが
裏表紙に書いてある順番は、実録!ホラー体験の次に恐怖のホラーまんがなのですが、実際はホラー漫画の方が先のページに載っています。
収録作品
恐怖のホラー映画館
マンガ家:つなん京助
内容は、すごくリアルなホラー映画を観にきたはずが、いつの間にか自分が・・・。
みたいなノリです。
きっと、子供のころに読んだら、眠れなくなったんだろうなあ。
実録!ホラー体験
実際に起こった恐怖の事件と同じ感じで、読者から届いた体験記をもとに取材をしたという体で書かれています。
収録内容は以下です。
・海で溺死体に足をつかまれた!
・人面疽を自分で切り取った男
・殺して捨てた子供が蘇ったか?
・寄生虫に喰い殺された子供
・岩の間から助けを求めた遭難者の霊
番外編シリーズ
・悪夢の中に死を招くマンション
・海へ跳び立った少年のバイク
・呪われた軍刀の謎
なぜ途中から番外編になるのか、理由は良くわかりません。
ストーリーのタイプがちょっと違うからかな?
単に見栄えがするからっていうだけな気がしますけど。
それより、人面疽の話は何か読んだ気がしたのですが、たぶん子供のころにこの本で読んだわけではなさそうです。
思い返すと、当時、人面疽はホラーの定番ネタだったんですよね。
大抵のホラー系の本で、人面疽ネタが扱われていたはずです。
どうして、定番ネタだったんだろう?
雑誌のムーで特集が組まれたことがあったのかな?
これは、ぼくの根拠のない想像なんですけど、ぼくが小学生のころ、1980年代までは夏になると学校で頭にシラミが湧いたときの対処法が書かれたプリントが配られていたんですよ。
令和の現代では、頭にシラミが湧くなんて聞いたことがない人もいそうですが、当時はいたらしいんですよ。
らしいと言ったのは、ぼくの周りの子でシラミが湧いた子どもなんていなかったからです。
でも、当時配られたプリントから、全国的に見れば、まだまだシラミが湧く環境で生活していた人がいたという証拠だと思うんですよね。
ということは、わりと不衛生な環境で生活しているせいで、体に大きなデキモノができる人もいたんでしょう。
それで、人面疽というネタにもリアリティがあったんじゃないかな?
と思うんですよね。
グロい写真が使われた背景を考えた
個人的には、巻頭カラーで使われている写真が印象的なんですよ。
ケイブンシャの大百科って、小学生向けのシリーズだったはずなのに、なかなかのグロテスクなものを使っていると思いませんか?
それで、グロいシーンが使われた背景をちょっと想像してみたんですけど、もしかしたらギニーピッグの影響があったんじゃないでしょうか?
もう少し具体的に言うと、ギニーピッグ自体がというより、その当時は映画でスプラッター系の作品がブームというか、花盛りだった気がするんですよ。
たとえば、
本書が発行されたのは1988年ですが、当時の劇場公開映画を調べてみると、スプラッターの名作「ヘル・レイザー」が公開されていますね。
邦画だと、「帝都物語」か。
前年の1987年を調べてみると、ありますね~。
「悪魔の毒毒モンスター」
「ザ・フライ」
「悪魔のデビルトラック」
でた!
「死霊の盆踊り」!
邦画だと、「ゆきゆきて神軍」。
いや、ある意味怖い作品だけど、これはホラーですらないか。
ちなみに、翌年の1989年を調べてみると、「丹波哲郎の大霊界 死んだらどうなる」が公開されていますねえ。
この作品は、当時の日本でいかに心霊やホラーのブームが来ていたかがよくわかる、代表的な映画じゃないですか?
ダリオ・アルジェント監督の「オペラ座 血の喝采」は、知る人ぞ知る名作ですけど、これも1989年だったんですねえ。
あ!「悪魔の毒毒モンスター 東京へ行く」もこの年だ!
しかも、「13日の金曜日PART8 ジェイソンN.Y.へ」もこの年!
ホラー界のモンスターが、出張した年だったんだ(笑)。
どうでしょうか?
1988年前後に、わりと有名なスプラッター系ホラー映画の公開が相次いでいると思いませんか?
ぼくの記憶でも、テレビの深夜枠で悪魔の毒毒モンスターが流れていたくらい、スプラッター系の作品が流行っていました。
そういう時代背景で、子ども向けの本にもグロテスクな写真を使いたくなるくらい、世間の怖いもの見たさがエスカレートしていて、見る側も感覚が麻痺していたんじゃないかな?
1988年の蛇足な補足
1990年になると一転、スプラッター系の公開はぐっと減ります。
それには理由があって、1988年から1989年というのは宮﨑勤の連続誘拐殺人事件が起きた年だったんです。
覚えている方もいらっしゃると思いますが、事件が発覚したときに宮崎の部屋からギニーピッグ4のビデオが見つかり、事件とスプラッター映画を関連づけての報道が相次いだ結果、ビデオレンタル店がホラー映画の貸し出しを自粛したり、テレビでの放送を自粛する動きが広がったんです。
おそらく、映画館もスプラッターシーンのある作品の公開を自粛したんだと思います。
ここでギニーピッグというが出てくるわけなんですけど、このシリーズは1985年から1990年まで続いていたようなので、当時は相当な変態スプラッターでも需要があるくらいのホラーブームだったことが考えられます。
蛇足の蛇足ですが、たしか宮崎の部屋から出てきたギニーピッグは、女医役としてピーターが出演という話題が流れていたはずなので、4作目のピーターの悪魔の女医さんのはずです。
ミステリーアドベンチャーゲーム
湖底に沈んだ村
が収録されています。
どんなゲームかというと、当時ゲームブックというのが流行っていて、本屋に行くと本棚の1段をゲームブックが占領していた時期があったんですよ。
どういう風に遊ぶかというと、たとえば物語を読んでいると、
右に進む→10ページへ
左に進む→15ページへ
という選択肢が出てきて、それを選択しながらストーリーを読み進めていく中で、バッドエンディングになったり、本当のエンディングにたどり着けるようにできていたんです。
いまもそういう本て売っているのかな?
ぼくは小学生のころ、ファンタジーRPG風のゲームブックにけっこうハマっていたんですけどね。
こういうゲームも載っているところにも、時代を感じますねえ。
本書のなにげに要チェケラなところ
ちなみに、
愛読者アンケートの送り先が、なかなかのユルさで震えます。
ホラホラほらー係
こういうノリ、昔のこういうタイプの本やゲーム関連本で見かけた気がします。
昭和のころの本やゲームのマニュアルって、ほとんどの人は注目しない部分でゆるい遊びが隠れていたりして、そこが面白かったりするんですよね。
マンガでも、マンガ家がコマの外に手書きでこちょこちょとツッコミや関係ない話題を書き込んでいて、それも面白かったじゃないですか?
そんな、なんだか温かみを感じる遊びが昭和の面白さのひとつだった気がします。
まとめ
いえ、別にまとめることなんてなにもないんですけど。
とりあえず、使われていた写真や内容から、心霊・ホラーブーム絶頂期に発行されたことが騒動できませんか?
先述したように、1989年を境にスプラッターは自粛傾向になりました。
でも、時代的にはそこから1999年に向かって、スプラッターよりも陰鬱なオカルトが蔓延していくんですよね。
皆さんもご存知のように、カルト宗教による終末思想の拡散から戦後最悪の、あのサリン事件が終結するまで、日本はどこか狂った時代が続きました。
本書が売られていたころの心霊やホラーって、子供でも楽しめるポップなものだったと思うんですよ。
それが、気づかないうちに大人が取り込まれていってしまい、ただただいびつでグロテスクなものに育っていってしまったんですね。
そんな現実に、心霊やホラーの本質が透けて見える気がするのは、ぼくだけでしょうか?