ストレイバード はぐれ鳥の止まり木

瀬戸市の読書コミュニティスペース ストレイバードの日記です。主に昭和の微妙な本、珍本、奇本を中心に紹介しています。

成り立ちが日本唯一な村の歴史本[ちろりん村顛末記]

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ちろりん村

そんな村があることを知っている人は、相当な風俗マニアかディープなサブカルチャー好きじゃないでしょうか?

 

 

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ちろりん村顛末記

著者:広岡敬一

発行所:筑摩書房

初版発行:2016年5月10日

 

この本は、1984年2月に朝日文庫から発行されましたが、2016年に改めてちくま文庫から発行されたものです。

 

 

さて、本書は[トルコロジー トルコ風呂専門記者の報告]の著者でもある広岡敬一氏の、現在、一般書店で手に入る唯一のものではないでしょうか?

 

トルコロジーでも語られていた、滋賀県雄琴に現在もあるソープ街『ちろりん村』飲みに焦点を絞り、その村ができた顛末と発展の歴史、そこで働く店長や女性たちのルポルタージュがまとめられています。

 

 

straybird.hatenablog.com

 

 

著者、広岡敬一とは?

 

まずは広岡敬一氏の経歴からお話ししたいところです。

 

広岡氏は戦時中に陸軍航空隊に所属し、写真部員として特攻隊員の写真などを撮っていたようなんですね。

 

終戦後は日本に送還されるものの、日本人とはいえ生まれが中国であったため身内もいないに等しく、闇市で生計を立てていたものの、戦後の社会が安定して物資が行き渡り出すと闇商売も成り立たなくなったそうです。

 

それで、どうしたものかとしばらく吉原をウロウロしていると、流しの写真家に遭遇。

 

写真部員をしていた著者は、その流しの写真家から商売方法を教えてもらい、吉原の花魁から声をかけられると写真を撮って後日納品するということをしていたんですって。

 

その後、雑誌記者になり、吉原での経験を生かし風俗専門の記者として有名になっていったそうです。

 

 

特殊な成り立ちの『ちろりん村』

 

まあ、なぜ雄琴がちろりん村と呼ばれるようになったかは、諸説あって著者でもよくわからないようですが、本書には一応理由が書いてあります。

 

トルコロジーと本書を読んで興味深かったのは、雄琴という風俗街の特殊性です。

 

吉原や中村大門などの比較的大きな風俗街の多くは、旧赤線地帯、いわゆる遊廓があった場所がそのまま新たな法律に沿った形で存続してきたのですが、雄琴については昭和になってから、それも昭和46年という戦後の混乱はとうの昔に終わり、好景気の波が押し寄せてきていた頃に田んぼしかなかった琵琶湖のほとりに忽然と現れた風俗しか存在しない村なんです。

 

つまり、過去に遊廓とは縁もゆかりもなかった場所にできた風俗街なんですよ。

 

 

本当にカエルくらいしかいなかった田んぼの中に、田守世四郎という人が派手な洋館風のトルコ風呂を建てたのが始まり。

 

そんな、「車じゃないと行けないような場所に建てたって、すぐ潰れるのがオチだ」と思われていたのに、オープン初日から車の列が途切れず、女性従業員は「死んでしまう!」と逃げ出すほどの大繁盛。

 

それを見た他のオーナーたちは、大焦りで競争開始!

 

年末にはお店が7軒も増えたんですって。

 

想像したら、衝撃的じゃないですか?

 

見渡す限り田んぼしかなかった場所に、1年もしないうちに8軒ものド派手な建物が立ち並んだんですよ?

 

2年後には、29軒になっていたんですって。

 

「田舎に29軒も?」と驚くのはまだ早いですよ。

 

ちろりん村と呼ばれた由縁は、そこで働く人たちのためのアパートから飲食店まで立ち並び、24時間365日、ちろりん村で暮らせるように整備されていったからなんです。

 

まさに、風俗が主産業の村がそこにできたんですね。

 

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他にも、相乗効果でちろりん村が大繁盛した理由が色々とあるのですが、それは本書を読んでくださいね。

 

ちなみに、村が大繁盛していた頃の呼び込みたちが特攻隊と呼ばれていた逸話は、本当に衝撃的ですよ。

 

 

この本が価値あるなーと思うところ

 

さて、この本が素晴らしいと思うところは、風俗街の成り立ちが書かれた資料としては信頼度が高いところです。

 

なにせ、戦後の雑誌記者が現地に入りこみ、自分の目で村の盛衰を見ながら現地の人たちに取材をしたものですからね。

 

それに比べると、吉原についての資料本も結構な数が出版されていますけど、江戸期のような昔に関してはジャーナリストが現地取材したような資料はないですよね。

 

おそらく、現代まで残っていた評伝や当時の小説のようなもの、よくて大きな遊廓の主人や町のボスみたいな人が書かせた、雇い主に都合のいい書き方をした本ではないでしょうか?

 

それ以外の地方にあった遊廓に関しては、せいぜい地図が残っている程度じゃないかな。

 

名古屋の中村遊廓だって、戦後の街の様子については運がいいとまだ話してくれる人がギリギリいますし、『聞書き遊廓成駒屋』という民俗学者が取材した本が出版されていますけど、大正以前となるとやぱり地図で確認できる程度で、もうわからないことだらけだと思います。

 

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古民家とか遊廓跡を巡るのが好きな人はわかるかと思うのですが、学校で習う歴史は何も感じないというか、その下で生きていたはずのたくさんの庶民の血の通った跡が感じられないんですよね。

 

 

そんなことを言うと、ちろりん村は歴史の教科書では現代の最終ページに近い場所にできた、せいぜい昭和レトロ程度の新しい村なので対象外なのですが、現在も消滅することなくひっそりと存在し続ける日本唯一のオカルトのようなその村は、不思議な魅力を放つのでした。

 

 

 

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