表紙を開くと、まずこの一文がお出迎えです。
「汝の人間性が命じるものに従え、他者の賛美を求めるな。自ら法を作り、それに従う者が真に気高く生き、誇らしく死ぬ。他の人生は生ける屍、亡霊だけが住む世界だ」
リチャード・フランシス・バートン『ヤズドのハジ・アブドゥの叙事詩』
えぇ~・・・
いきなり拳を突き上げてイキってるじゃん・・・
脳力を最大限に発揮させるノウハウが書いてあるんじゃないの?
と最初は思ったのですけど、読んでみると脳について知るにはなかなかの良書でした。
フランスの天才学者が教える脳の秘密 (T's BUSINESS DESIGN)
著者:イドリス・アベルカン
発行所:TAC株式会社
初版発行:2018年12月14日
認知や神経について幅広く知れる本
脳
という、人間がその他の動物と決定的に違う存在にしたもの。
いや、そもそも人間とは脳のことだ。
といっても言い過ぎではない最重要部位。
この脳に関わる、神経工学とか認知科学などの学問から、そこに繋がるであろう学問までを幅広く展開しながら『脳=人間』の可能性について語りつつ、ひとりひとりが現代の閉塞感から抜け出して良い未来を発明できるようになるには、こういうことから始めたらいいんじゃないかな?と提案している本です。
新進気鋭の天才学者なんていうとなんだか敷居が高く感じますけど、全体を通してすごく読みやすいです。
あと、脳に関連する心理実験や学説などをそこそこの深さで幅広く知ることができるので、認知に関する入門書としてもいいと思います。
どこまでが自分の範囲?
個人的には、キネスフィアとノウアスフィアについての話が興味深かったですね。
キネスフィア(Kinesphere)は舞踏理論化が考えた概念で、人が立った状態で手足が届く範囲を指す言葉のようですが、著者はこの範囲を技術革新によって現在もどんどん広げ続けているといいます。
自動車や飛行機、歩行補助器などのことを言っているのでしょうね。
ノウアスフィア(noosphere)というのは、本書では人間の思考の圏域のことを指す意味で使われていますが、元は100年くらい前に作られた言葉で、おそらく当時キリスト教と進化論の相性がすごく悪い中で、学者としてどちらも否定しないイイ感じの落としどころを考えた結果、出てきた理論じゃないか?と思うのですが、現代の流行り言葉でいうならアセンションに近いのかな。
ノウアスフィアは、現代では否定荒れている理論なのですが、近年のインターネットの発展で、「もしかしたらオープンソース的な部分でノウアスフィアが起こるんじゃないの?」と期待する人がちらほらいるんだそうです。
ぼくとしては、ノウアスフィアの理論はさっぱりピーマンですが、キネスフィアの延長として思考の範囲が広がっているというのは何となくピンとくるんですよね。
土着信仰がわずかでも残っている東洋人なら、草木国土悉皆成仏 じゃないけど、人間も自然の一部、宇宙の一部というのはなんとなく感じられるじゃないですか。
さらに、気功に触れたことがある人なら、身体を超えて情報が伝わるという経験をしているわけで、ニコラ・テスラが1926年に予言したスマートフォンより、脳の可能性という意味では東洋の気功的な感覚の方がノウアスフィアに近いな、と思うんです。
まあ、本書とは関係のない蛇足ですけどね。
バイオミミクリーとニューロミミクリー
バイオミミクリー(bio-mimicry)は、数年前にテレビにで取り上げられたりしていたので、ご存知の方も多いかと思いますが、生物から学ぼうという学問です。
ぼくは会社員時代、超はっ水技術の研究開発をしていたのですが、その時はバイオミメティクスとよんでいました。
当時、バイオミミクリーとバイオミメティクスの差は、学会の派閥の違い程度にしか考えていなかったのですが、概念は同じだけど意味は違ったんですね。
バイオミミクリーは、生物の形態をまねるだけでなく生態系のシステムレベルまでまねて、そこで学んだことは科学だけでなく哲学や政治、芸術の分野まで使えることがあるんじゃないの?
という感じで、広い分野で形やシステム、考え方まで応用する場合に使う言葉です。
バイオミメティクスは、生物の形や機能を主に工学や医療の分野で応用する場合に使い、バイオミミクリーと比べると工業製品などの特定の分野で利用する場合に使うようですね。
参考にどうぞ
ちなみにぼくが開発していたのは、ハスの葉の表面をに似た凹凸を科学的に作り出してはっ水にする技術でした。
ほかに有名なものといえば、サメ肌の構造をまねて水の抵抗を大幅に減らして新記録が続出した水着。
ハコフグの形をまねて、事故の衝撃に強くなったメルセデスベンツの自動車。
カワセミの形とフクロウの風切り羽をまねて空気抵抗と騒音を減らした新幹線。
などなど、現在はこうやって生物の構造を学んで高機能化、省エネ化などを進めているんですねえ。
著者は、これらに加えてニューロミミクリーというのを提案しています。
今度は神経の仕組みから学んで、社会をより良いものにできないか?ということを考えているんですって。
神経、特に脳内の神経網は、一つ一つは直接繋がっているわけではなく、神経と神経の間を酵素などを使って伝達しているんですよね。
そういう仕組みをどうやって社会に生かすのかは、時間をかけてよく考えてみないとさっぱり思い浮かんでこないのですが、まずはこういう提言をすることが次の時代を作り出すきっかけになるんでしょうね。
著者が一番伝えたいこと
さて、冒頭の一文の答えですが、本書の一番最後の章で語られます。
そして、この一文こそが脳を解放するヒントなんですよ。
でも、現代の都市社会で生活している人がこれを実現するのは、よほどの意思がないと難しいだろうなあ。
フランスの天才学者が教える脳の秘密 (T's BUSINESS DESIGN)
- 作者: イドリス・アベルカン,広野和美
- 出版社/メーカー: TAC出版
- 発売日: 2018/12/12
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